モデルカーは実車の纏う造形美と秘められた物語、組み込まれたエンジニアリングの粋などを、例えば1/43という非常に小さい縮尺で再現します。実車の魅力を縮小表現するために不可欠な手段が、精巧度の追求です。モデルカーの技術革新は、材質や生産方法だけでなく、何をどう精巧に再現するかというクリエイターの挑戦心によって実現されるものです。
Artwork Lamborghini Jota (Original J) 1970
作品紹介 ランボルギーニ・イオタ(オリジナル J )1970年
Description
Bob Wallace, an engineer of Miura, started creating a one-off test car in 1969. The car is now called the "Original J" of Jota. "J" stands for the FIA's Appendix J racing regulations. Jota is
derived from Spanish pronunciation of the letter "J". Wallace re-designed Miura and reduced weight using aluminium parts that were reinforced by many rivets. In addition, front lights, chin
spoiler, wide rear fender and wheels were modified. As a racing car, both cowls open off the body. The model car is 1/43 full open-close resin factory built model by MR Collection, Italy. Its
quality is so marvellous as to come and see the actual model in the World Model Car Museum.
作品解説
ミウラ開発チームの一員であったテスト・ドライバーのボブ・ウォレスが、1969年から製作したワンオフのレース仕様車が、現在「オリジナルJ」と呼ばれているイオタです。「J」というのは、FIA(国際自動車連盟)の競技規定付則J項を指し、そのプロトタイプ・クラス車両規則を満たす実験車両という意味です。イオタとはラテン文字「J」のスペイン語発音に由来します。ミウラから各部が設計変更され、アルミ等で軽量化も図られたため、破損防止のリベットが数多く打たれています。他にも固定式ヘッドライトや張り出したリアフェンダー、チンスポイラーやホイールなどが主な外観上の違いで、前後カウルはレースカーのように分離します。モデルカーはイタリア・MRコレクションによる1/43フル開閉のレジン製ファクトリービルトです。シャープな造形と精密さは一見の価値があります。世界モデルカー博物館で是非実物をご覧になってください。
縮小再現した精密造形
1970年代後半、日本で巻き起こったスーパーカーブームに後押しされ、国内メーカーから数々のダイカスト製ミニカーが発売されました。フォルムは悪くなく、リトラクタブルライトやガルウィング、エンジンカバーや前後カウルなどが可動し、スーパーカーの魅力に触れたい子供達にとって夢の玩具でした。写真のサクラ社製ミウラは、実際に私が遊び倒した1台です。
それから30数年、モデルカー市場の成熟と技術革新により、精巧度は格段に進化しました。同じミウラのフル開閉モデルを紹介します。当然価格差はありますが、その差を優に上回るレベルでミウラの魅力が再現されていることは一目瞭然です。良し悪しや好き嫌いではなく、両者の “違い” に着目してください。それが “進化” です。
精巧さを最大限に発揮できるモデルカー様式が、フル開閉モデルです。しかし、実現のハードルは高く、設計・製造・組立すべての工程で高い技術力が要求されます。その分、高い完成度に仕上がった作品は、実車の魅力を圧倒的な3D情報量で再現することができます。
フル開閉モデルの素材は作品によって異なり、ホワイトメタル、レジン、ダイカスト、プラスチックと様々です。それぞれの素材に特徴がありますが、いずれも作品数は限定されています。実現のハードルが高い分、モデルカーの中でも数少ない特別な作品群となっています。
全体のフォルムや塗装品質は一目瞭然ですが、それ以外でダイカスト製モデルカーの品質を簡単に識別できるポイントを紹介します。逆に言えば、安価なモデルでもこれらのポイントを上手く押さえておけば、そこそこの品質に仕上げられるということです。
ウィンドゥ・シールドやヘッド&テール・ライトなど、実車で透明素材の部分は、モデルカーでも本体と異なる素材で再現されます。そのため、窓の部品は本体に隙間なく正確に取付けられているか、ヘッドライトはライトカバーと別パーツで構成されているか等を確認します。特にヘッドライトは車の顔の重要パーツですので、手を抜くと作品が台無しになります。
コストや手間を省くため、真っ先に手を抜かれる部分が、ワイパーやサイドミラーなどの突起物です。安価なモデルでは、往々にしてワイパーが無いか、フロント・ウィンドゥにモールドで一体表現されているかです。精密モデルカーでは、ワイパーがエッチングパーツによって立体的に構成され、サイドミラーの形状や鏡面、取付け角度などが丁寧に再現されています。
靴がみすぼらしいとファッションが決まらないように、自動車にとってホイールとタイヤは、全体のフォルムを引き締める重要な役割を担います。安価なモデルには立体感が無く、精巧なモデルではホイールの立体的造形やディスク・ブレーキまで別パーツで再現されています。タイヤとホイールアーチの間に無駄で不均一な隙間が無いことも、品質を左右するポイントです。
〔学院長の補足メモ〕
トップページで紹介したテスタロッサTXGの作者・プロモデラーのハイスバート(Gijsbert)氏と出会ったのは、オランダで定期開催されているスワップ・ミーティング(ホビーフォーラムの様なモデルカー蚤の市)でした。会場を回っていると、ふと見覚えのない1/43カウンタックを発見します。当時ですら市販モデルはほぼ把握している自負があったので、ブースの主にメーカーを尋ねたところ「ブラーゴ製カウンタックを自分が改造した」と言うのです。そりゃ、知らんはずやわと。仕上がりはPMAやIXOのダイカスト製品と何ら変わりませんでした。
彼が言うには、たとえブラーゴのような二束三文の廉価Toyミニカーでも、ボディシェル(車体部分)の造形が良ければ、少し手を加えるだけで見応えのある作品(私が言う所のモデルカー)に仕上げられるのだそうです。なるほど!と思いました。上述の品質チェックポイントを、彼は既に改造という手法で実践していたのです。
「どんな改造だってできる」という彼の腕試しを目的に、私が細かい指示書を書いて大々的な改造を依頼した作品がテスタロッサTXGです。仕上がりは見事の一言です。それ以降、彼には別の改造作品やキットの通常組立などを依頼していきました。彼との出会いが、私の欧州でのモデルカー人生に深い造詣をもたらしてくれました。他にも、ボディシェル品質に関わる逸話がありますが、どこか別のページでご紹介します。
2020年3月某日