第2章 / 第1節 分野別 Category

モデルカーが対象とする自動車には、ガソリン車だけで130年以上の歴史があり、科学技術の発達や社会の発展に伴い様々な分野が誕生しました。王道の1/43スケールでは、ほとんどの分野が模型(ミニカー含む)化され、最大の選択範囲を誇りますが、いきなり手を広げてもコレクションは充実しません。まずは、今あなたが一番興味を抱いている分野の特定から始めましょう。主要な分野について説明します。


Artwork   Italdesign BMW Nazca C2 1992

作品紹介 イタルデザイン BMW ナスカ C2 1992年

1/43 Provence Moulage Italdesign BMW Nazca C2 1992  プロバンス・ムラージュ イタルデザイン BMW ナスカ C2 1992年

Description
Nazca C2 was engineered and designed by Italdesign of Giorgetto Giugiaro, first shown at Tokyo Motor Show 1992. Re-styled body from the predecessor Nazca M12 1991 looks like a show car but mechanism is actually a racing car. Its weight is only 1000 kg and BMW 5 litre V12 twin-turbocharged engine tuned by Alpina is mid-mounted on the carbon fibre chassis to claim a top speed of 311 km/h. Aesthetic features are full glass top and semi gullwings. Three prototypes were produced but C2 never entered into mass production. Its 1/43 model car is only produced by Provence Moulage as a kit form (as of May 2015). This is a hand built model by a professional modeller.

 

作品解説
ナスカC2は、ジョルジェット・ジウジアーロ率いるイタルデザインが設計・製造したコンセプトカーで、1992年の東京モーターショーで発表されました。前年のナスカM12の正常進化型で、ショーカーのようなスタイリングですが、内容はレーシングカーそのものです。アルピナがチューンナップしたBMW5リッターV12ツインターボ・エンジンをミッドに搭載し、わずか1トンのカーボン・ファイバー・ボディで時速311kmを発揮します。美しいフォルムを引き立てているのは、全面ガラス張りのキャビンとセミ・ガルウィングです。ガラス部分が上方、ボディ部分が前方水平に開く形式です。実走行できる試作車が3台製作されましたが、残念ながら量産には至りませんでした。1/43モデルカーでは、フランスの旧・プロバンス・ムラージュからキットが発売されたのみです(2015年5月現在)。写真のモデルは日本人モデラーによるキットのハンドビルトです。



注力する分野の特定


1.ロードカー(公道車)

自動車の主軸は、公道を走るための「ロードカー」です。黎明期のクラシックカーでは曖昧でしたが、モータリゼーション(車社会化)定着後は、各国での法律や規制に基づき公道走行が可能なよう設計・製造された自動車を指します。

 

その公道車の主軸は乗用車です。1人以上の人間が乗車し、公道外のA地点(駐車場等)から公道を走行して、公道外のB地点(目的地等)へと移動する目的の自動車です。最も一般的な分野であるため、モデルカーのコレクションにおいても、質量共に一番充実しています。

1/43 Volvo 780 Bertone 740 GL 850 Minichamps Spark ボルボ 780 ベルトーネ 740 GL 850 ミニチャンプス スパーク

4ドア・セダンと派生車種

定型的な様式(スタイル)や分類(クラス)が存在する乗用車の中で、一番普及しているのが4ドア・セダン(サルーンとも)です。運転者の他に2人以上の人間を乗車させて移動する機能を持ち、利便性のため4枚以上の乗降扉を装備しています。実車として実用性を追求した結果、ボディ形状のデザイン性が犠牲にされています。

 

1/43モデルカーで車体を俯瞰すると、車種を問わずバランス的に明らかに胴体が冗長で、後扉周辺のデザイン処理に苦心の跡が見てとれます。ちなみにセダンとは、人力で担ぐ輿(こし=セダン・チェア)の名前に由来しています。

2ドア・クーペ

1列の主座席に、後部座席を持たないか簡略化することで乗員室(キャビン)を前後に圧縮し、2枚以下の乗降扉と固定した屋根(ハード・トップ)で閉じた車体(クローズド・ボディ)を構成している乗用車が、2ドア・クーペです。

 

運転者を含む乗員の移動・運搬が目的のセダンに対し、運転者自身の移動に重点が置かれた設計です。そのためエクステリアからはデザイン上の無駄が削ぎ落とされ、乗用車の全様式の中で最もバランスの良い美しいプロポーションに仕上がっています。モデルカー・スケールの王道が1/43なら、自動車デザインの王道は2ドア・クーペに他なりません。

 

基本設計は2ドア・クーペでも、屋根の仕様によって派生車種が存在します。脱着式や開閉式によって、キャビンが剥き出しの車体(オープン・ボディ)を構成するカブリオレ(又はロードスター、スパイダー、コンバーチブルとも)などです。開閉式の場合、屋根はハード・トップだけでなく、布などを用いたソフト・トップ仕様も存在します。

2.スポーツカー

2ドア・クーペの中でも、大排気量エンジンを搭載しない代りに車体を小型軽量化し、相対的な運動性能を高めることで、運転者自身が軽快な走行を愉しめるよう設計・製造された乗用車を、軽量スポーツカーと呼びます。

 

人間を運搬する実用性に欠ける分、屋根の脱着・開閉機構を取入れ、カブリオレ化して付加価値の向上を狙った実車がほとんどです。軽量化を追求するあまり、単座だったり、完全に屋根や扉が無い車種も存在します。

 

その特徴から、1/43モデルカーでは屋根をオープン状態で再現した作品が多く、ソフト・トップかハード・トップかを問わず、屋根がクローズ状態の作品の方が稀少です。

1/43 Lotus Super 7, Vemac RD 200, Opel Speedster, Renault Wind ロータス・スーパー7、ヴィ―マックRD200、オペル・スピードスター、ルノー・ウィンド

フェラーリやポルシェなどの2ドア・クーペが “スポーツカー” と呼ばれる場合がありますが、厳密にはこの軽量スポーツカーを指す言葉であり、2ドア・クーペ全体に適用する表現ではありません。軽量スポーツカーはイギリスで数多く誕生し、同時にヨーロッパ大陸などを長距離移動するためのグランド(大陸)ツーリング(旅)カー(GT)も発展していきました。

3.スーパーカー

軽量スポーツカーと対極の方向に位置し、車体の軽量化も追求するけれど、それ以上に超高性能なエンジン(必然的に重くなる)を搭載することで、絶対的な運動性能の向上を目指して設計・製造された2ドア・クーペを、特別にスーパーカーと呼びます。ロードカーでは最高峰に位置します。

 

1970年代後半から日本を発祥として用いられ始めた表現で、実車業界において幾度も定義付けが試みられましたが、今一つ的を射ていません。従って、『モデルカー学』では私が下記の通りスーパーカーを定義します。

 

スーパーカーとは、通常の社会生活における実用性や合理性、

つまり動力性能・デザイン・機能・価格などを過剰に超越した

2ドア・クーペの総称である。

 

つまりスーパーカーとは実用性を旨とする “道具” でなく、それ自体が独立して存在意義を持つ “芸術” なのです。

スーパースポーツ

スーパーカーの中でも、上位クラスに位置づけられる数少ない車種を、スーパースポーツと呼びます。また、同一車種でも特別仕様車にだけ、この呼び名が付けられることもあります。表現としては、“スーパーカー” よりも世界的に認知されており、両表現が同義語として用いられることも多いようです。

 

スーパースポーツの中には、フェラーリFXX(エンツォがベース)のように、公道が走れずサーキット走行しかできないのにレースカーでもないという、社会通念すら超越した特殊な車種も存在します。

1/43 Ferrari Enzo Ferrari, Lamborghini Veneno, フェラーリ・エンツォフェラーリ、ランボルギーニ・ヴェネーノ

世界最速の市販車

スーパーカーにとって最も誇らしい称号が、“世界最速” です。移動装置である乗用車の最高峰に位置することから、スーパーカーの歴史は世界最速への挑戦の歴史でもあります。

 

1990年台は自然吸気V12エンジンを搭載するマクラーレンF1(イギリス)が世界最速でしたが、2005年にケーニグセグCCR(スウェーデン)が387.8km/hを記録します。すると、ブガッティ・ヴェイロン(フランス)が407km/hと400km越えに一番乗りしますが、2007年にSSC(シェルビースーパーカーズ)アルティメット・エアロ TT(アメリカ)が412.3km/hを叩き出します。2010年にはブガッティ・ヴェイロン・スーパースポーツが雪辱を果たし、431.1km/hを記録して世界最速車の王座を奪還しました。その後も最速記録は次々と塗り替えられていきます。

1/43 SSC Ultimate Aero, Bugatti Veyron, アルティメット・エアロ、ブガッティ・ヴェイロン 世界最速記録車

なお、写真のモデルカーは最速を記録した車輌とは必ずしも一致していませんのでご了承ください。

4.コンセプトカー

自動車メーカーが新しい技術や様式に挑戦する際、その理念や方向性を具体的な姿として表現すべく製作・展示する車輌を、コンセプトカー(ドリームカーとも)と呼びます。

 

コンセプトカーから発展して市販車が開発・製造される場合、工業製品として煮詰っていく代りに、コンセプトカー時代の先進性や個性が弱まってしまうことがあります。もちろん市販化されないままで終わるコンセプトカーも数多くあります。

 

そのため、コンセプトカーにはカー・デザイナーの個性や創造性が色濃く反映され、革新的で野心的な機構や形状が表現されています。さらに実車に接する機会が制限されているため、モデルカーに絶好の対象です。特に1/43スケールでは、数多くのコンセプトカー作品がモデル化されています。

1/43 Mazda RX-500, Chrysler ME4-12, マツダ RX-500, クライスラー ME4-12

5.レースカー(競技用車輌)

ロードカーが公道走行を目的として開発された車輌であるのに対し、レースカーは特定競技のレギュレーションに基づいて開発された、モータースポーツ専用の競技車輌です。そのためレース競技の種類やレギュレーションによって、車輌の成立ちや構成は大きく異なります。

 

自動車の誕生は、ほぼ同時にレース競技の誕生でもあり、モデルカーにおいてレースカーは、ロードカーと並ぶ重要な作品テーマです。主要な4種のレースカーについて解説します。

1/43 Ferrari F2008, Lola T70 Mk2, McLaren F1 GTR, Lancia Stratos, ローラT70, ランチア・ストラトス, マクラーレンF1 GTR, フェラーリ F2008

フォーミュラ・カー

フォーミュラ・カーは、閉鎖されたサーキットで規定の周回数を走り、順位を競うフォーミュラ・レースのために開発された専用車輌です。車体の構成は、「単座でドライバーと車輪が剥き出し」という特徴があります。

 

モデルカー・クリエイターはほとんどが欧州メーカーなので、質量共に最も充実している作品群はフォーミュラ・カー・レース最高峰のF1です。もちろん他のクラスも作品化されており、入門クラスのカート(レーシング・カート)まであります。

 

F1は1チームに2名のドライバー(別ゼッケン)がおり、年に20戦近く開催され、車輌は全戦で仕様が異なっており、応援するチームだけでも、1年に数十台収集しなければなりません。範囲をライバルチームにも広げ、さらに歴史を遡るとなると、膨大なコレクション量になるので要注意です。

スポーツ・プロトタイプ

スポーツ・プロトタイプ(プロトタイプ・レーシング・カーとも)は、ル・マン24時間耐久レースなど、各国で開催されるレース競技の規定に準じて開発された専用車輌です。フォーミュラ・カーとは異なり複座で車輪は覆われていますが、車体は規定によってクーペとオープンの両方が存在します。

 

車種は歴史を彩った華麗なル・マン・カーの数々や、1980年代に個性の花開いたグループCカーなど百花繚乱で、モデルカーの作品テーマとして高い人気を誇っています。

 

レース専用車輌であるため、完成品モデルカーのほとんどはゼッケンやスポンサーロゴを装着しています。レース・マニアにとっては魅力的ですが、自動車マニアにとっては素の車体(プレーン・ボディ)の方が本質的な造形の魅力を直接感じ取ることができます。

GT レーシング・カー

GTとは、ヨーロッパ大陸側で長距離移動するために誕生したグランド・ツーリング・カー(グランド・ツアラーやグラン・ツーリズモとも)を語源とする略称で、GTカーによるレースが組まれて一般化したことにより、“レースに参加できる高性能な市販乗用車” という意味に転じていきました。

 

近代におけるGTレーシング・カーはF1やスポーツ・プロトタイプ同様、レース競技(ツーリング・カー・レース)毎の規定に準拠しますが、市販乗用車(GTカー)を仕様変更(改造)した車輌である点が異なっています。

 

GTレースには実車メーカーのワークス・チームだけでなく、プライベート・チームも数多く参戦します。そのため、フェラーリやポルシェなどは、レース用にGT2やGT3仕様の車輌を開発し、各チームに販売しています。

 

世界モデルカー博物館には、販売に向けお披露目する目的のプレゼンテーション・バージョンや、レース出走車を単一色で仕上げたプレーン・ボディ・バージョンなどに車種を絞り込み展示しています(一部例外あり)。

ラリー・カー

ラリーは、サーキットを走行する他のレース競技とは異なり、原則的に公道上を長距離走行して区間タイムや正確さを競うモータースポーツです。

 

ラリー・カーは、GTレーシング・カーのように市販乗用車の改造車輌ですが、公道走行が可能な仕様であり、運転手と案内人(ナビゲーター)が同乗する点などが大きな違いです。

 

ランチア・ストラトスのように、ラリーのために専用設計された特別な素性の車輌もありますが、4ドアの大衆車をラリー・カーに改造した車輌も数多く存在します。

6.その他の車両

モデルカーの世界は奥深く、主軸のロードカーやレースカーに留まらず、ありとあらゆる自動車が模型化されています。その一部を紹介します。いずれも、一つの分野に特化して収集すれば、モデルカーの醍醐味を十分堪能することができます。私自身は、ロードカー・2ドア・クーペの収集に手一杯なため、これらの車種は収集対象外としています。

1/43 Batmobile, Mad Max, バットモービル, ポインター, ウルトラセブン, マッドマックス

クラシック・カー

一般的に1945年(第二世界大戦終結の昭和20年)頃までに製造された自動車を、クラシック・カーと呼称します。構造や仕様が定着する前の黎明期であり、自動車発展の軌跡が各時代の車輌によく表れています。世界モデルカー博物館ではなく、同じアクトランド内の世界クラシックカー博物館に、実車18台を展示しています。まずは実車をご堪能ください。ちなみに館内の各車両解説板は私がデザインし、解説文も私が執筆しました。

特別な車両

特殊な用途の乗用車、つまり警察車輌、救急車、消防車、霊柩車、タクシー、リムジン、バス、トラック、サンドバギー、月面走行車などもモデルカー化されています。ロードカーと同じく、各時代や各国の車輌を収集すると面白い分野です。

働く車(特殊自動車)

俗に言う “働く車” は、特定の作業目的のために製造又は改造された車輌で、特殊自動車と呼ばれます。モデルカーとして作品化されている分野は、建設車輌を中心に、フォークリフトやトラクターなどがあります。建設車輌は、乗用車のモデルカー分野とはやや異なる位置に存在しています。

速度記録車

速度記録車(スピード・レコード・カー)は、FIA(世界自動車連盟)の規定に基づき、地上で有人走行して最高速度を計測するために設計・製造された専用車輌です。複数台で同時走行する競技ではなく、単独走行して記録だけを競い合います。そのためロケットのような形状が多く、1970年の時点で記録は既に時速1000kmを超えています。モデルカーでは意外と人気があり、結構作品化されています。

TVや映画の車

TVや映画に登場した自動車も、モデルカーとして一つの分野を構成しています。007映画でお馴染みのアストン・マーティンやロータス・エスプリ、アニメ『ルパン三世』のフィアット500など実車に忠実な車輌もありますが、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアン・タイムマシンなどの改造車、『ウルトラセブン』のポインター、『マッドマックス』のインターセプター、『バットマン』のバットビークル、そしてゲーム『グランツーリズモ』に登場するGT by シトロエンやレッドブル X2010など、完全に架空の車輌まで幅広く作品化されています。特に一般の方々に人気の高い分野です。