第1章 / 第3節 商品形態 Commodity

モデルカーにはその成り立ちや発展の過程により、異なる商品形態が存在します。組立てが必要な「キット」か、組み上がった「完成品」かという製品状態、外観だけを再現した「プロポーション・モデル」か、内部機構まで作り込んだ「フル開閉モデル」かという製品形式などが、作品によって複雑に組合わさり、モデルカーという商品を形成しています。


Artwork   Fiat Giannini 590 GT Assetto Corsa 1969

作品紹介 フィアット・ジャンニーニ 590GT アセット・コルサ 1969年

Fiat Giannini 590 GT Assetto Corsa 1969  1/43 フィアット・ジャンニーニ 590GT アセット・コルサ 1969年 カラーラモデル 

Description
Giannini is an Italian car manufacturer originally founded in 1920 by Giannini brothers of Attilio and Domenico and based in Rome. Their tuning cars had entered races since the first edition of the Mille Miglia in 1927 and won some races. In 1961 they separated and Domenico began modifying Fiat cars. This 590 GT is based on Fiat 500F with expanded 586cc engine and ready for racing (Assetto Corsa in Italian). Model cars of Giannini are not popular and this is one of nice resin factory built models by Italian Carrara Models of Denis Carrara.

 

作品解説
ジャンニーニはイタリア・ローマを拠点とする自動車メーカーで、1920年にアッティリオとドメニコのジャンニーニ兄弟が創業しました。彼らがチューニングした車は1927年の第1回ミッレミリア・レースから参戦し、優秀な成績を収めています。1961年に2人は袂を分かち、ドメニコが自動車事業を率いてフィアットのチューニングカーを世に送り出しました。590GTはベース車のフィアット500Fを586㏄エンジンに拡大し、アセット・コルサ(イタリア語で「レース用のセットアップ」)と呼ばれるレース仕様車に仕立て上げました。ジャンニーニのモデルカーは数が少なく、写真はイタリアのデニス・カラーラが主宰するカラーラ・モデルのレジン製ファクトリービルトです。面白い車種選定と高品質かつ低価格が定評のクリエイターです。



顧客のための創意工夫


モデルカーの標準的な商品形態

モデルカーが商品として提供される時、主流を占めている最も標準的な形態があります。1/43完成品では、高額レジン製モデルと、親しみやすいダイカスト製モデルの2系列に大きく分かれます。他にも、ギフト・ボックス(化粧箱)という開閉できる紙箱様式や、プラスチックの箱を開いて台座にする様式など、少し変わった商品形態も存在しています。

レジン製メーカー完成品 (ファクトリー・ビルト)

レジン製の精巧なモデルは、往々にして平坦で少し大きめの台座に固定されており、本体前後の空き寸法が2:1ほどで、前方にはモデル名やシリアル番号などが刻まれたプレートが取付けられています。

 

その台座に、ホコリ除けとして透明のアクリルケースが被せられ、さらに保護・運搬用の丈夫な紙製の外箱に収められています。商品として豪勢なパッケージですが、当然価格に反映されており、さらにモデルを展示する際は、外箱を外してどこかに収納しなくてはなりません。

センチュリードラゴン 1/43 Alfa Romeo Tipo 33/2 Stradale アルファロメオ・ティーポ 33/2 ストラダーレ

ダイカスト製モデル

ダイカスト製モデルの標準的な様式では、紙製の外箱に窓が開いており、そのままで内部のモデルカーを確認できます。モデルの視認性と固定の作業性を高めるためか、台座のモデル固定面は台形状に高くなっていることが多く、窓側の傾斜面を利用してモデル名が記載されます。台座の大きさや形状はクリエイター(製造メーカー)によって個性がありますが、一様に透明ケースはアクリルでなくプラスチック製です。
1/43 McLaren F1 GTR Race Version マクラーレンF1 GTR HEKORSA

レジン製キット

例:Lamborghini Countach LP400 by Make Up

モデルカーでは、材質に関わらず未組立「キット」状態での商品が存在します。よく知られている1/24プラスチック・モデル(プラモデル)は、大量生産のため安価で広く流通しています が、スケールを問わずホワイトメタルやレジンによるキットは、ほとんどが少量生産の家内制手工業製品です。高額である上に流通経路と数量が限定され、さらに2000年代後半から新しく発売される商品数は減少の一途を辿っています。

1/43 Lamborghini Countach LP400 1974 Kit Make-up ランボルギーニ・カウンタック LP400 1974年 メイクアップ アイドロン キット

プロポーション・キット

完成品と同じく、キットもメーカーによって製品状態に差があります。写真のキットは日本のメイクアップ社製1/43カウンタックです。開閉機構を持たない「プロポーション・キット」に属し、このクラスでは最上位の品質に仕上がっています。

 

パーツ構成は一つの完成形に到達していると言え、シャーシ周りはメタル(時にレジン)、ボディとインテリアはレジン、細かい部分はエッチング、ライト周りは透明プラスチック、ウィンドゥ・シールドは平板式クリア・シートやバキューム・フォーム、エンブレム周りはデカールという様式が定番です。

 

レジン製キットは、車以外の造形物でガレージキットと呼ばれている模型分野に属します。キットの組立方法はプラモデルとは手間や工程が結構違っていますので、詳細は第5章「実践方法」第3節「組立方法」をご覧ください。数少ないですが、フル開閉モデルのキットも発売されています。

レジン製 “ファククトリー・ビルト” 完成品

例:Lamborghini Countach LP400 by Make Up

キット形態の商品は、同時に組立済みの商品、つまり「ファクトリー・ビルト」の形態で発売されることがあります。2000年代後半からレジン製であっても完成品が主流となり、キットの商品化の方が珍しくなりました。購入したキットを各自が組立てたモデルは、作者がプロでも素人でも「ハンド・ビルト」と呼び、メーカー完成品とは区別して位置づけます。

1/43 Lamborghini Countach LP400 1974 Make-up ランボルギーニ・カウンタック LP400 1974年 メイクアップ アイドロン

プロポーション・モデル

写真のモデルは、先に紹介したメイクアップ社製1/43カウンタック・キットのファクトリー・ビルトです。最後発の製品化であることを差し引いても、1/43モデルカーにおけるカウンタックの決定版となっています。メイクアップ社のブランド名はアイドロンで、実車の歴史的評価に基づく車種選定や造形の正確さ、細かい作り込みなどに定評があります。

 

多くのキットでは組立説明書(インストラクション)が乏しく、ハンド・ビルトだと実車情報の精通度合いによって、間違った塗装や組立をする場合があります。一方、メーカー完成品だと、実車情報を基に設計開発した張本人が責任を持って作品を仕上げるため、そういう心配がありません。

 

その代わり、もともと作品の再現度が不十分な場合、キットであれば改造や修正を施した上で、納得いくレベルに組立てられますが、完成品は気に入らなくても修正ができず、そのまま受け入れざるを得ないのが欠点です。

 

私がロンドンで収集を始めた頃は、キットでしか発売されていない魅力的なモデルカーが数多くあり、その組立用資料として実車の専門書などを収集し始めました。並みの実車ファンより充実しているでしょう。作品の良さを理解するには、最低限の実車情報も押さえておかなくてはなりません。

モデルカーの主要な形式

製作過程に関わらず、完成したモデルカーには幾つかの作品形式があります。それぞれに特長があり、クリエイターの個性と創意工夫が発揮される領域です。

1.プロポーション・モデル

見たままの外観を再現することで、実車の魅力をモデルカーとして表現した形式がプロポーション・モデルです。1/43モデルにおいては主流であり、大半を占めています。キャビン(乗員室)の内装(インテリア)再現は作品によって差があります。屋根を開いたり取り外してオープン形状にできる車種(コンバーチブルやスパイダーなど)には、屋根パーツの脱着が可能なモデルもあります。1/24や1/18でも、基本となるのはこのプロポーション・モデルです。

2.セミ開閉モデル

車体のどこか一部に開閉ギミックを設けることで、実車の魅力をモデルカーとして表現した形式がセミ開閉モデルです。1/43モデルにおいては、主にエンジン・カバーやドアに開閉機構が設けられます。ミッドシップ車では、後方カウルが開閉し、シャーシごとエンジンが露出するモデルもあります。バリオルーフなど屋根の電動開閉機構を持つハードトップ車では、特徴的な格納ギミックを再現した意欲作もあります。

3.フル開閉モデル

前後左右一通りの開閉部分に可動ギミックを組込むことで、実車の魅力をモデルカーとして表現した形式がフル開閉モデルです。最も高い造形力と数多くのパーツが必要で、特に1/43では最難関のモデルカー形式です。そのため作品数は極めて限定されており、材質に関わらずキット、ハンドビルト、ファクトリービルト共に、特別なモデルに属します。一方、ダイカスト製の1/18モデルでは、比較的数多くの作品で採用されています。

4.オープン固定モデル

車体の主要な可動部分を開いた状態で固定することで、実車の魅力をモデルカーとして表現した形式がオープン固定モデルです。展示状態ではフル開閉モデルと変わりませんが、可動ギミックが不要な分だけ、モデルカーとしての造形負担は軽減します。そのため、フル開閉が困難な1/43で若干数の作品が存在しています。他のスケールではほとんど見かけることはありません。




〔学院長の補足メモ〕

メイクアップ社のレジン製キットとファクトリービルトを紹介しましたが、同社の他にもイタリアのBBR社やMRコレクション社などは、2000年代くらいまで完成品の他にキットも商品として販売していました。しかし、中国での格安生産が普及したため、レジン製モデルカーの主要なメーカーは主軸を完成品へと移行し、キットが商品化されることはほとんど無くなりました。キットにはキットの良さがあるので、少し残念です。

 

カウンタック・キットの写真をご覧ください。箱に発売時の定価が記されてますよね。当時1万円でした。欧州には数々のキットメーカーがあり、キット全盛の時代に価格帯は日本で6千円~1万5千円位だったでしょうか。さすがにキットで1万円を超えると購入に結構勇気が要りました。1/43で3万円を超えるキットもありました。それは主にフル開閉モデルのキットです。ランチア・ストラトス、フォードGT40、フェラーリ330P4など、魅力的な名車で実現されていますが、車種の種類は極めて少なく、バカ売れする商品ではないので流通数も極めて限られています。これらはフルディテールキットやスーパーキットなどと呼ばれています。ショップやオークションで発見したら、思い切って購入されておくことをお勧めします。

 

ところで、手の平サイズのキットで1万円、この価格をどう思われますか。私は1/144ガンダムや1/100マクロスのガレージキットも結構持っています。ロボット系や美少女系でも、ガレージキットの多くはモデルカーと同じレジン製キャストキットです(昔はソフトビニールキットもありました)。ロボットキットを買い始めたのは、日本に帰国した90年代末からですが、価格帯はモデルカー同様6千円~1万5千円位だったでしょうか。商品形態の潮流もモデルカーと同じで、中国生産の格安高品質な完成品が普及したため、新作キットを見るのはワンダーフェスティバルなどのマニア向け大型イベントくらいになってしまいました。秋葉原の各店舗でも、ガレージキットはほんの少量しか置かれていません。

 

ロボットキットも1万円を超えるとなかなか手が出せませんでした。しかし、ある日気付きます。モデルカーに比べてレジン製のパーツ数が圧倒的に多いやんと。モデルカーキットの箱の少なくとも倍の大きさの箱に、レジン製パーツがぎっしりと詰め込まれています。これだけの量の原型を作って型を取り複製するのは大変だなと。そう思ったら、ロボットのガレージキットって格安じゃんと。結構ロボットキットを見なおしました。では逆にモデルカーキットはどうして高額なんでしょうか。それは、レジン製パーツだけではないからです。ゴム、メタル、エッチング、透明フィルム、透明プラスチックなど、異なる素材のバーツで構成されています。私はボディシェルの素材でレジン製とかホワイトメタル製とかキット名を呼びますが、海外では時にマルチメディアキットと呼ばれます。ロボットキットなどと違い、複合的な素材で構成されているからなんでしょうね。分量が少なくても、決してぼったくっている訳ではありません。安心してモデルカーキットをご購入下さい。

2020年3月某日