第1章 / 第5節 縮尺 Scale

大人の美術工芸品としてのモデルカーは、精巧度や材質だけでなく、モデルの縮尺(スケール)によって特性が異なります。各スケールの歴史や業界の動向、技術の進化やコレクターの移り変りなど、さまざまな影響を受けています。いずれにしろ、モデルカーの根幹をなす重要な項目です。


Artwork   Abarth Fiat Sport OT 2000 1965

作品紹介 アバルト・フィアット・スポルト OT 2000 1965年

1/43 Abarth Fiat Sport OT 2000 1965  アバルト・フィアット・スポルト OT 2000 1965年

Description
Abarth in Turin Italy was originally established at Bologna in 1949 by Carlo Abarth who was a sporting director of the Cisitalia. Its scorpion emblem derived from Carlo's astrological sigh. Abarth produced highly competitive small turned cars that were called a giant killer. Sport OT2000 is one of the original Abarth complete racing cars. It is based on Fiat 850 chassis rear-mounting 2000cc engine with sleek FRP body as the same as OT1300. Its unique air scoop on the roof is called a periscope (periscopio in Italian). The model car is created by Spark of Minimax producing quality resin models at reasonable prices.

 

作品解説
アバルトは、イタリアのスポーツカーメーカー・チシタリアから独立したカルロ・アバルトが1949年にトリノで設立したメーカーです。彼の誕生月の星座・サソリをエンブレムにしています。フィアットなどの小型車に高度なチューニングを施したアバルト車は、数々の国際レースで勝利を挙げ「ジャイアントキラー」や「ピッコロ(小さい)モンスター」などと恐れられました。写真のスポルトOT2000は、フィアット850のプラットフォームを改造し、OT1300と同じアバルト・デザインのFRPボディを架装、2000㏄の自社製エンジンをリアに搭載したレーシングカーです。アバルトらしい流線形の美しいボディと潜望鏡(イタリア語でペリスコピオ)と呼ばれる屋根に突き出たエアスクープ(吸気口)が特徴です。モデルカー・ブランドは高品質なレジン製モデルを格安で提供するマカオ・ミニマックス社のスパークです。



コレクターを形成する重要な項目


近年のモデルカー主要4スケール

Alfa Romeo Tipo 33/2 Stradale アルファロメオ・ティーポ 33/2 ストラダーレ モデルカー 1/64 1/43 1/24 1/18
スケールモデルでは、模型化した対象(飛行機、船舶、建物など)の大きさによって、適したスケールが分かれています。自動車模型の場合、全長50cm程に及ぶ極大の1/8や特大の1/12から、指先でチョイとつまめる1/87まで幅広く揃っています。その中でも主要なスケールは大きい順に、1/18、1/24、1/43、1/64の4種類です。

1/18:近年作品数が増加しつつあるスケール

1/18スケールは、1ヤード(3フィート=914.4mm)を2インチ(50.8mm)に換算した縮尺です。モデルカーでは、前輪と後輪を両手に乗せて持つと丁度の大きさです。

 

大作りなことから、格安で玩具系のダイカスト製モデルから始まりましたが、ミニチャンプスやオートアート(写真)、エグゾトや京商などが、完成度の高いダイカスト製フル開閉モデルなどを発売したことで、品質は大きく向上しました。

 

さらに2010年代になると、中国の経済発展に伴って新しい市場が形成され、大柄なモデルを好む中国人の嗜好に合わせ、1/43レジン製モデル・メーカーが競って1/18レジン製モデルを製造するようになりました。しかし、フル開閉モデルで価格比較すると、ダイカスト製の約5~10倍と高額です。

 

ちなみに、1/12というスケールは、1フィート(304.8mm)を1インチ(25.4mm)に換算した縮尺です。

1/18 Alfa Romeo Tipo 33/2 Stradale  Autoart オートアート 1/18 アルファロメオ・ティーポ 33/2 ストラダーレ

1/18 Scale Model of Alfa Romeo Tipo 33/2 Stradale by Autoart
オートアート社1/18ダイカスト製のアルファロメオ・ティーポ 33/2 ストラダーレ

1/24:組立式プラモデル等で主流のスケール

1/24スケールは1/12の半分で、1フィート(304.8mm)を1/2インチ(12.7mm)に換算した縮尺です。完成品のモデルカーも存在していますが、歴史的にも一般的にもプラスチック製の組立キット(いわゆるプラモデル)が最も普及しています。アメリカでは1/25とされる製品もあります。片掌に載せて持てるギリギリの大きさです。

 

1/24のダイカスト製完成品メーカーは、成熟した1/18モデルの製造メーカーとほぼ異なっており、品質は一様にゆる~い感じです。そのため、2000年代後半からは、レジン製キット・メーカーが精巧な1/24キットの製品化を手掛けています。アルファロメオ・ティーポ33/2ストラダーレ(4灯前期型と2灯後期型の両方)もキット発売されましたが、私は資金にゆとりが無く買いそびれました(4台並んだ写真の1/24モデルはダイカスト製)。もし、保有されている方がいらっしゃれば是非お譲りいただきたい逸品です。

1/43:世界で最も充実したモデルカーの王道スケール

モデルカーを象徴する「王道スケール」が、1/43です。自動車模型の大先輩である “鉄道模型の縮尺” に準じて発展し、イギリス型の鉄道模型 “O(オー)ゲージ”(軌間32mm)に由来します。寸法で示すと、1フィート(304.8mm)を7mmに換算した縮尺です。全長約10cm、掌にしっくりと載せられる最適な大きさです。

 

それぞれのスケールには異なる特長や醍醐味がありますが、あえて1/43を “王道” と呼ぶには然るべき理由があります。『モデルカー学』では1/43スケールを根幹に据えていますので、少し詳しく説明します。

1/43 Lamborghini Jota SVR FrontiArt フロンティアート 1/43 レジン製 フル開閉 ランボルギーニ・イオタ SVR

1/43 Scale Model of Lamborghini Jota SVR by FrontiArt
フロンティアート社1/43レジン製フル開閉のランボルギーニ・イオタSVR

俯瞰(ふかん)に最適な大きさ

船舶・飛行機・自動車を問わず、大きい実機を縮小して模型化する最大の目的は、俯瞰して全体の造形を愉しむことにあります。その究極の例、つまり最も縮尺の激しいごく普通の俯瞰用模型は「地球儀」でしょう。実機が4mほどある自動車模型にとって、1/43は遠近感の歪みを生じることなく、全方位から全体像を鑑賞できる最適なスケールなのです。

美術工芸品として絶妙の大きさ

実車を模型化する際、細か過ぎて縮小再現できない部分は割愛され、魅力を表現するのに必要な造形要素が取捨選択されます。クリエイターの美的感性と創造性が最も要求されるスケールが1/43です。そこから大きくなるほど「工業製品」に近づき、小さくなるほど「玩具」に近づきます。1/43は「美術工芸品」として成立している絶妙なスケールなのです。

精密造形にとって限界の大きさ

エクステリアの縮小再現に重きを置くプロポーション・モデルであっても、実車の魅力を表現するには細密な造形が必要です。さらに、内部機構まで再現するフル開閉モデルとなれば、非常に細かいパーツの造形と組立が必要となり、リアリティを追求する上で最低限の大きさが必要です。1/43は、精密造形のほぼ限界に達した最小のスケールなのです。

コレクションできる適切な大きさ

モデルカーは単品でも魅力的ですが、“収集” という名の魔法をかけると、その魅力は数倍・数十倍に増大します。同一車種を異なるクリエイター作品で比較し、実車ブランドの歴史を追って鑑賞するうち、100台単位ではなく数千台レベルの量に発展するものです。1/43は、数多くのモデルカーをコレクションして魅力を堪能するには最適なスケールなのです。

費用対効果において妥当な大きさ

同じ1/43でもダイカスト製とレジン製では約2~5倍の価格差があります。同じレジン製でも、1/43と1/18ではさらに約2~10倍の価格差があります。しかし、1/43モデルの完成度は十分高く、両スケールの情報量や精巧度はに大きな違いはありません。1/43は、完成品質の高さと製品価格とが非常にバランス良く合致したスケールなのです。

1/64:格安で購入できる入門用のスケール

1/64スケールは、鉄道模型で “Sゲージ” と呼ばれる縮尺です。日本ではコンビニを中心に流通し、一気に普及しました。モデルカー・コレクターには格安の1/43ダイカスト製モデルカーでも、一般の方々には高価な嗜好品です。そこで幅広い層をターゲットにしたエントリー・モデルとして、新たな市場開拓に貢献しています。コンビニ流通でない本格的なモデルも登場していますが、その小ささから精巧度に限界があり、主流の作品はあくまで玩具(ミニカー)の領域に入ります。

★ 1/43モデルカー未経験の方々へ

完成度の高いモデルカーは、写真撮影した際にスケール感を失います。つまり、1/43モデルは2.4倍大きい1/18と比べても精巧度が全く劣っていないばかりか、撮影具合によっては実車の写真かと見まがうほどです。

 

費用対効果の高いダイカスト製の1/18モデルならまだしも、わざわざ大きく重く高額のレジン製1/18モデルを購入されている方は、小さく軽く割安な1/43精密モデルを是非とも手に取ってみてください。10cmに凝縮された、未経験の “モデルカー趣味の醍醐味” に遭遇することができます。




〔学院長の補足メモ〕

私は1/43精密モデルカーのコレクターだと公言しているものの、点が線、線が面へと広がっていくように、他のスケールにもそこそこ触手を伸ばしています。実車ブランドを極めて限定していますが、ごく一般的な1/18コレクター並みには1/18作品も保有していると思います。1/24プラモデルに関しても、ごく一般的なコレクター並みかそれ以上の数量を保有しているかもしれません。ただ、自分では能力的にも時間的にも空間的にも組み上げられないため、プラモデルは100%タンスの肥やし状態です。

 

最近は1/18レジン製モデル・メーカーが増えたことから、かつてのダイカスト製モデル並みの価格展開もあり、うっかり手を出してしまいがち。しかし、ダイカスト製フル開閉モデルに比べ、レジン製プロポーションモデルはやはり冗長で大きさの無駄遣いを感じます。さらに、昔からの高額レジン製メーカーは1台平気で6~8万円するため、億の財産と保管展示する屋敷が無ければ本格的なコレクションは不可能です。つまり、コレクターズ・アイテムとしては1/43より素性が劣ります。途中で挫折して手放すのがオチですので、第4章「知的感性」第4節「収集の継続性」をしっかり学習して頂き、1/18モデルカー収集の賢い実施戦略を立案してみて下さい。

2020年3月某日