第6章 / 第1節 逸品解説 Favorites

軽四自動車からスーパースポーツまで、どんな車にもモデルカーとして鑑賞に値する魅力があります。

 

しかし、第1節「逸品解説」では、敢えて私の個人的好みに偏重し、少し特別で稀少な作品群を選んで、全7項に分け体系的に紹介します。第2節「デザイナー」と併せてご覧ください。

 



Artwork   Ferrari F50 GT 1996

作品紹介   フェラーリ F50 GT 1996年

1/43 Ferrari F50 GT 1996   フェラーリ F50 GT 1996年

Description
To celebrate Ferrari's 50th anniverssary, based on the idea of Piero, the other son of Enzo, F50 was designed adopting F1 technology and introduced in 1995. The predecessor "speciale" F40 mid-mounts twin turbocharged V8 engine, whereas F50 naturally aspirated 4.7 litre V12 that was developed from the 3.5 litre V12 used on Ferrari 641 of F1 1990. Ferrari intended to race against GT cars as McLaren, Mercedes and Porsche, F50GT was produced in 1996 by Ferrari jointlly with Dallara and bodywork was done by Michelotto Automobili. After three examples were built, Ferrari ceased the project and they never joined races. Its 1/43 model car is also rare as well as the real F50GT.

 

作品解説
フェラーリ創設50周年に向け、エンツォのもう1人の息子ピエロの「公道を走るF1」という開発コンセプトで、F1技術を導入したロードカー・F50が1995年に誕生しました。先代の特別車(スペチアーレ)F40がV8ツイン・ターボだったのに対し、F50はF1マシーン・フェラーリ641(1990年)の3.5リッターV12エンジン直系の自然吸気4.7リッターV12エンジンを搭載しています。素性の良さからも、フェラーリはマクラーレンメルセデスポルシェ等が活躍するGTレースに参戦すべく、F50のレーシング・バージョンとして1996年にF50GTを開発します。F1コンストラクターのダラーラと共同製作し、ボディはミケロットがリデザインしました。3台が生産されましたが、レース活動をF1だけに絞る方針転換により、GTレース参戦は中止となりました。公道を走るF1のレーシング・バージョンは、一度もサーキットで本領を発揮することなく、幸運な顧客の手に渡っていきました。






〔学院長の補足メモ〕

皆さんは F50 と F50 GTにどのような印象をお持ちですか? F50が初めて公開された時、F1ロード・レーサーという魅力的な生い立ちなのに、エクステリアは私の心に刺さりませんでした。ところが、F50 GT はどうでしょう。圧倒的に「カッコえいやん!」と心が鷲摑みにされてしまいました。でも、外観はどう見てもF50だし、目立った変更点はリア・ウィングぐらいです。一体何が私の印象をそんなに大きく変えてしまったのでしょうか?

 

F50 は、大ヒットした前スペチアーレ・F40のリア・ウィング形状を継承・発展させ、全体を柔らかい曲線基調で構成してあります。そのため、リアが少々重い感じの “生物的” 印象を与えます。それに対しF50 GTは、フロント周りも平坦にして曲面を抑え、ルーフ前方に設けたエア・インテイクからテイル・エンドまで、側面は前輪フェンダーからテイル・エンドまで、共にリア・ウィングの中央ステー根元へと収束するかのように伸びる、直線的で軽やかな弾丸形フォルムへと仕立て直されました。その結果、どう見てもF50なのに、全体がシャープで “機械的” な全く別の印象を創り上げていたのです。

 

他にも、ちょっとしたデザイン変更で大きく印象が異なる例を紹介しましょう。先代のF40、市販車がリトラクタブル・ヘッドライトだったのに対し、LMやコンペティツィオーネ、GTEなどのレース仕様車は、固定式の丸形2灯ヘッドライトを採用しました。機能性を重視した結果なんでしょうが、見た目の印象がのっぺりした “爬虫類” から、ガッと眼を見開いた “猛獣” へと変貌したのです。これは、天を仰ぐ起き上がり(ポップアップ)式ヘッドライトのミウラが、正面を睨む固定式ヘッドライトのイオタに大化けした時の仕組みと同じです。

 

リア・クォーターのデザイン変更だけでも、印象は大きく変わります。代表例がブガッティEB110です。ベース車がガンディーニ・プロトタイプだったため、フロント周りはシャープなウェッジ・シェイプでした。しかし、リア・クォーターに流れるような円弧のサイド・ウィンドゥを備えており、側面から見た印象は優美でおっとりした感じでした。しかし、ハイスペック版のスーパースポーツやSSでは、円弧ウィンドゥを廃し、エア・インテイクを取付けたことで、斜め後方の視界を犠牲にしつつも、スパルタンな味付けに大成功しました。一つ格上のモデルとして、エンジニアリングの素晴らしさを主張するアピアランスが手に入ったのです。

 

メーカー自身のデザイン変更例でなければ、フェラーリ348からのザガート348エラボラツィオーネ、ポルシェ911(993)からのルーフCTR2、フェラーリF512MからのハーマンF512Mなどが、基本フォルムを維持しながら印象を大きく変えた優れたモディフィケーションの典型的な成功例と言えるでしょう。

2020年3月某日