第5章 / 第4節 モデルカーの購入方法 Purchasing

ダイカスト製ならともかく、レジン製の少量生産・精密モデルカーは、普通の模型店やトイ・ショップではまず目にすることがありません。また、零細クリエイターでなければ、原則的にメーカー直販も行っていません。従って、精密モデルカーの収集は、まずモデルカー専門ショップを探すところから始まります。

 

実践編の第4節では、欲しいモデルカーを具体的にどうやって購入すればいいのか、実体験に基づく方法を紹介いたします。モデルカーの商品展開は広範で、専門ショップにもそれぞれ得意な分野があるため、自分のコレクション内容に応じて、購入方法を賢く選択していくことが重要です。


Artwork   Koenigsegg Agera R 2011

作品紹介 ケーニグセグ・アゲーラ R 2011年

1/43 Koenigsegg Agera R 2011 ケーニグセグ・アゲーラ R 2011年

Description
After 6 production of Koenigsegg CC8R, its improved version CCR was unveiled at 2004 Geneva Auto Show with the engine of extreme power 806ps and only 14 were ever made. CCR recorded a top speed of 387.87 km/h at Italy's Nardò Ring in 2005, breaking the fastest production car record held for 8 years by McLaren F1, however, a half year later it was broken by Bugatti Veyron with 408.47 km/h. In 2006 the 10th anniversary year of the first CC's completion, CCX series started meaning Competition Coupe 10 (X being the Roman numeral for ten) and in 2011 for 15th, CC's successor Agera was introduced. Agera R, as the model car of FrontiArt, output 1140ps by 5 litre twin turbocharged V8 engine. Celebrlating 20th anniversary of the company in 2014, One:1 was premiered with one megawatt power 1360ps at the weight of 1360kg, which is world's 1:1 (One:1) power to curb weight ratio homologated production car that was produced only 7 in total.

作品解説
ケーニグセグ初の市販車CC8Rが6台生産された後、最大出力を806psに高めたCCRが2004年のジュネーヴ・モーターショーで発表されました。総生産台数は14台です。CCRは2005年2月にイタリア・ナルド・サーキット(周回コース)で387.8km/hを記録し、自然吸気エンジンのマクラーレンF1が8年間保持してきた市販車世界最速記録を更新しました。しかし同年9月にブガッティ・ヴェイロンの408.47km/hにその座を奪われます。CC試作第1号車から10周年の2006年、コンペティション・クーペ10(ローマ数字でX)を意味するCCXシリーズの生産が開始されます。そして15周年の2011年にはCCの後継車となるアゲーラが発売になります。写真のフロンティアート製のモデルカー車種はアゲーラRで、5リッター・ツインターボV8エンジンから1140psを発揮します。創業20周年にあたる2014年ジュネーヴ・モーターショーでは、アゲーラの究極モデルであるワン・トゥ・ワン(One:1)が発表されました。車名の由来は、最高出力の1360ps(1メガワットに相当)に対し車重も1360kgであり、パワー・ウェイト・レシオが1:1(=One:1)となるためです。モデルカー・メーカーのフロンティアートはランボルギーニ・イオタSVRで有名ですが、正確な造形と美しい塗装・仕上げ、そして新興スーパーカーへの積極的な姿勢が特長です。



専門家との関係構築と情報処理


情報収集

実車の車種情報は、世の中に出回っている各種メディア等で調べることができます。重要なのは、モデルカーの情報をいかにして入手するかです。インターネットの普及によって、情報収集の主軸が紙媒体からオンラインへと移行したため、比較的容易にはなっています。それらも含め、主要なモデルカーの情報源(情報収集方法)を下記に紹介します。

1.モデルカー・メーカーのウェブサイト
商品ラインナップの大枠(得意な実車ブランドなど)や過去の発売商品の他に、これからのリリース予定などを最上流の情報として知ることができます。

 

2.モデルカー・メーカーのウェブショップ
少数派ですが、メーカーがウェブショップを直営している場合があり、特に少量生産のショップ限定品などをコレクターが直接購入することができます。

 

3.モデルカー・メーカー発行のカタログ
主要なモデルカー・メーカーは年間カタログを発行していますが、印刷物の性質上どうしても記載内容(予定)と現実にずれが生じるので注意が必要です。

 

4.モデルカー専門店のウェブショップ
ショップの個性にもよりますが、数多くのメーカー商品に関し、現在の在庫状況やこれからの発売予定商品などをリアルタイムに知ることができます。

 

5.モデルカー専門店のメールマガジン
ショップで実際に購入できる予約商品の受注案内を最速で入手可能です。特に少量生産の限定モデルやショップ特注モデルの情報は極めて重要です。

 

6.モデルカー専門店の定期刊行物(会報)
昔から伝統的に存在する、モデルカー専門店が通販用に独自編集・制作・発行している紙媒体を中心とした会報で、カタログ同様に有償の場合が多いです。

 

7.出版社が発行する定期刊行の専門誌
主に出版社が書店で販売する専門誌で、新商品の情報はもちろん、作品や業界を特定の視点から掘り下げた専門誌ならではの情報を得ることができます。

 

8.インターネット・オークション・サイト
既に発売済みの商品や昔の絶版商品について、市場における流通状況を知るには、最も手軽で効果的な方法です。買い逃した商品でもいつかは見つかります。

 


ショップの類型

コレクションに際して直接取引する相手は、モデルカー・メーカーではなくショップです(一部例外を除き)。世界中には数多くのショップが存在しており、得意分野や品揃えは決して均一ではありません。そのため、自身のコレクションに合致したショップを見つけておくことが重要です。

 

そこで、私の四半世紀の実体験から、ショップを大胆に分類しました。これらの典型例を参考に、あなたの目指すコレクションに対する現在のお取引きショップの妥当性を、少し客観的に考察してみて下さい。

1.深広型  モデルカー・マニアによる専門店
モデルカーやメーカーの事情に自分自身が精通している経営者、もしくは店員が運営している王道のモデルカー専門店です。売り手と買い手というビジネス上の立場は違いますが、同じモデルカー・マニアという点で学ぶことが多く、趣味の内容として高度な情報交換が可能となります。最上級のショップです。

 

2.浅広型  マニアではないが品数の多い販売店
運営する本人はモデルカー・マニアではなく、あくまでモデルカーをビジネス上の商材として扱っています。ただし、品揃えは豊富で、マニアとしての専門情報は得られないけれど、自分が選んで商品を購入するだけなら利便性の高いショップです。

 

3.深狭型  特定分野に特化した専門店
店主の得意とする、または絞り込んだ商材の特定分野に特化し、それだけを専門に扱うショップです。自身のコレクション内容に応じて上手にお付き合いすれば、大きな存在価値を発揮してくれます。

 

4.浅狭型  取り敢えず並べているだけの販売店
幅広い模型専門店や複合的なホビーショップに多いパターンです。あくまで模型商品の一分野としてモデルカーを売っているだけで、専門家不在のうえ、品揃えは乏しく、新商品の入荷も頻繁ではありません。その代わり、専門店で売切れの商品でも売れ残っている場合がありますので、私の様なマニアック・コレクターには、意外と重宝することがあります。



日本を代表する老舗専門店

2000年代以降になって、かつてのキットメーカーは苦境に陥りましたが、完成品メーカーの数は確実に増加しました。中国のレジン製モデルカー工場が技術力を高め、OEM等を開始したことによって、自社生産を行わない企画・販売だけのモデルカー・メーカーも数々誕生しました。

 

超高額少量生産の実車スーパーカー・メーカーと同じように、レジン製モデルカー・メーカーを興すのはそれほど難しくありません。多額の設備投資は不要の家内製手工業だからです。その代わり、簡単に興せてもビジネスの継続は困難です。わずか数年で消える新興スーパーカー・メーカーのように、新興モデルカー・メーカーも、数作品だけで消えていくことがあります。

 

モデルカー・ショップというのは、そういう歴史も規模も特性も異なる世界中のモデルカー・メーカーと、どれだけ広く深く長く取引しているかで、格と信頼性が違ってきます。また、コレクションには継続性が不可欠ですので、実車&モデルカー・メーカーと同様、ショップにもビジネスの継続実績が大切な要素です。

 

あなたが本格的なコレクターを目指すなら、実力・実績・信頼性の高いショップと良い関係を築いておいて損はありません。最低でも1つ、モデルカー業界に精通したショップ(専門店)と仲良くなっておきましょう。21世紀に入ってネット・ショップが増加し、コレクターにとって収集環境は “選択可能な時代” に入りました。ここではネット時代前夜からレジン製1/43精密モデルカーの世界を切り拓き、現在でも市場を牽引している老舗ショップを3件だけ紹介します。老舗ショップから世界のトップメーカーへと華麗に転身したメイクアップ社は除外しました。他にも魅力的なショップは数々ありますので、ご自身でお取引きを重ねながら、御用達店を見極められてはいかがでしょうか。

WM&レジン製モデルカー専門ショップ

ラクーンオート 名古屋 モデルカー専門ショップ

ラクーンオート

 

販売拠点: 愛知県名古屋市

商品展開: WM&レジン製のキット, 部品, 完成品
商品種類: 特注品、新製品、中古品、完成品製作
販売形態: 実店舗、通販(メールマガジン)
ウェブサイト: www.raccoon-auto.com/minicar/

 

全国でも珍しい、ホワイトメタル&レジン製の精密モデルカーに特化した専門ショップです。キット全盛の時代から、大小を問わず数多くのモデルカー・メーカーの作品を扱ってきたスペシャリストです。現在はメーカーの都合で完成品が中心となっていますが、通好みの商品展開は健在です。専属プロモデラーによるキットの組立(完成品製作)も行ってくれます。

 


モデルカーなら何でも揃う総合的専門ショップ

ロム ROMU 大阪 モデルカー専門ショップ

モデルガレージ・ロム

 

販売拠点: 大阪府大阪市

商品展開: WM製、レジン製、ダイカスト製
商品種類: 特注品、新製品、中古品、完成品製作
販売形態: 実店舗、通販(会報、メールマガジン)
ウェブサイト: https://romu-romu.com/

 

素材(ホワイトメタル,レジン,ダイカスト等)や形態(キット,完成品等)を問わず、モデルカーに関するあらゆる商品を取扱う総合的専門ショップです。メーカーへの特注品はもちろん、オリジナル完成品の自社ブランドも展開しています。専属プロモデラーによる完成品製作や、既に保有しているモデルカーの修理なども行ってくれます。

 


ホビージャパン社が運営する専門ショップ

ポストホビー新宿店 Posthobby 東京 新宿 モデルカー専門ショップ

ポストホビー新宿店

 

販売拠点: 東京都渋谷区代々木

商品展開: WM製、レジン製、ダイカスト製
商品種類: 特注品、新製品、自社ブランド製品
販売形態: 実店舗、通販(楽天、ヤフー)
ウェブサイト:http://posthobby.com/shop/sinjyuku/

 

日本を代表する総合模型誌の発行元・ホビージャパン社が運営するポストホビー店舗の中で、モデルカーに特化した専門店です(旧・渋谷店)。同社は2014年から日本車ブランドのマーク43を興し、モデルカー・メーカーとしても精力的に活動しています。渋谷パルコ改築工事に伴い新宿駅徒歩4分の場所に移転、2016年9月10日に新宿店として生まれ変わりました。


情報分析の要点

モデルカーを収集するには、作品を選定し、価格など諸条件を確認し、最善の購入先を決定し、購入を実行に移すという過程を経ていきます。そのためには、得た情報をどのように分析し、どのように判断し、如何に購入の決断を下すかという手法を確立しなくてはなりません。情報を分析する着眼点には以下の様なものがあります。

1.予約品か在庫品かの確認
予約品は数量限定の場合、急いで予約しないと品切れになることがあります。それは在庫品でも同じです。私自身、20台限定モデルの最後の1台をギリギリセーフで購入できた経験があります。

 

2.車種バージョンの確認
微妙なバリエーション違いはよく確認しないと、うっかり保有済み商品を買いかねません。特にマイナー・チェンジやホイール、ハンドル位置や細かい空力パーツが違うだけの車種には要注意です。

 

3.車体色の確認
車体色にも慣れが必要です。赤色1つとっても複数種あり、また予約案内で写真と現物の色が微妙に異なる場合もあります。馴染みのない色名称の場合、実車の写真を調べて確認しましょう。

 

4.商品コードの確認
最終的に頼りになるのは、個体を唯一特定する商品コード(商品名と別に存在)です。不安な場合は、必ず商品コードでバージョン違いや未購入モデルであることなどを確認しましょう。

 

5.最安価格の確認
ショップもですが、特にオークションサイトでは、同じ商品でも出品者によって価格が大きく異なることがあります。海外出品の場合、送料もバカになりませんので、トータルコストをしっかり確認しましょう。

 

6.取引条件の確認
店舗以外で購入する場合、支払方法と期限、振込先銀行、使用可能なクレジット・カード、複数購入時の同梱発送、返品可能な条件、ポイント割引の有無などを事前にしっかり確認しましょう。

 


これらの条件を確認した上で、購入の有無を決定しましょう。

賢い購入方法

コレクションを継続的に充実させるには、効果的で体系的な購入方法に習熟することが必要です。私自身がまだ現役のコレクターですので、手の内を明かし過ぎると競合相手を育成することになり、自分の首を絞めかねません。そこで、当たり障りのない内容を紹介するに留めておきます。ご了承ください。

1.自分なりの収集ルールを決めておく
自動車の分野、ブランド、車種、スケールなど、ある程度自分が収集したい対象を絞り込み、ルール化しておくと、情報処理の効率が上がり、購入の意思決定を円滑に行えます。

 

2.最新情報の確認を怠らない
常日頃からメーカーやショップなどの商品リリース情報を確認しておきます。元々が少量生産で、商品供給も不安定な業界ですので、人気商品ほどすぐ品切れてしまいます。

 

3.購入に悩んだら取り敢えず買っておく
コレクションのレベルが高まるにつれ、欲しい作品の入手も困難になります。“買って後悔” するのは購入できた時の贅沢です。購入に悩んだら、取り敢えず買っておきましょう。

 

4.送料の累積を甘く見ない
1回600円の送料でも、50回購入すると3万円となり、もう1台買えます。さらに海外からだと送料は平気で3~5千円します。送料無料のショップや同梱発送を最大限に活用しましょう。

 

5.限りある購入資金を最大限に活かす
生業で得た貴重な資金を収集に投入する訳ですから、モデルカー本体には出費を惜しんではいけませんが、送料や振込手数料などの周辺コストは徹底的に削減しましょう。

 

6.受領後すぐに商品を確認する
専門ショップでも店員は人の子です。最善を尽くしていても間違うことはあります。まずは破損が無いか、そして商品自体が正しいかを商品コードと商品名で必ず確認しましょう。

 


〔総括〕
自分のコレクションの目指す方向を定めた上で、徹底的に情報を把握・分析・管理することです。それにより、情熱・時間・労力・資金など、限りある収集資源を集中でき、効率良く活用させられます。明確な目的を持って日々の情報処理を積み重ねていけば、購入に際しての決断力も高まります。

 

さあ、実践の第一歩を踏み出しましょう。