塗装済みの外観からは判別しづらいですが、モデルカーの主要素材には複数の種類が存在します。一般的に市販されている商品では、ホワイトメタル、レジン、ダイカスト、プラスチックの4種類でほとんどが構成され、それぞれが持つ異なる特徴によって、作品としての個性が形成されています。
Artwork Autozam AZ-1 Mazdaspeed 1993
作品紹介 オートザム AZ‐1 マツダスピード 1993年
Description
Autozam was one of five sales channels of Mazda in 1990s and a new marque of Kei & small cars of the time. AZ-1 stands for the smallest car of Autozam. Suzuki-sourced 675cc straight 3
turbocharged engine is midshipped and the body is covered by plastic panels equipping gullwing doors. It looks like a miniature supercar. According to the recession of Japan, only approximately
4,400 AZ-1 were produced during 1992 to 95. The model car is its Mazdaspeed version with special aeroparts and created by LSJ, standing for Looksmart Japan, currently Eidolon of Make Up in Tokyo.
作品解説
オートザムとは1990年代にマツダが展開した5チャンネル販売網の一つで、当時の軽・小型自動車のブランド名です。その頭文字と最小クラスの意味から、AZ-1と命名されました。スズキ製の直3ターボ・エンジンをミッドに搭載し、特殊プラスチック製の外装やガルウィングを装備した、スーパーカーのミニチュア版といった趣です。しかしバブル崩壊などで、1992~95年に約4400台と販売が振るわず、生産が早期終了されました。写真のモデルカーは、1991年にル・マン24時間耐久レースで総合優勝を果たした旧・マツダスピード(マツダ系のモータースポーツ会社)のエアロパーツを装着した、1993年発表の特別仕様車です。東京青山の老舗モデルカーショップ・メイクアップが展開していたLSJ(現・アイドロン)の作品です。
進化する造形技術
ホワイトメタルはスズと鉛などの合金で、融点が400度以下と低い低融点金属です。流動性が高いことからシリコンゴム型との相性が良く、細かい部分まで成形できるため、精密モデルカーの黎明期を支えた素材でした。
AMR(写真)を始めとして、数多くのクリエイター達がホワイトメタル製の名作を世に送り出しましたが、1990年代後半から主軸がレジンに移行し、2000年代の間にホワイトメタル製の新作キットや完成品はかなり減少しました。
柔らかいとは言え金属ですので、ズッシリした重量感があり、ホワイトメタル作品の大きな特長となっています。その一方で、重量があだとなり輸送時に振られて破損する危険性が高く、梱包時はモデル本体の固定に注意を要します。
レジンとは合成樹脂のことで、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂など、複数の材料があります。主剤と硬化剤と呼ばれる2種類の液を混ぜることで化学反応が起こり、常温常圧で凝固・硬化します。金属より軽いのはもちろん、細かくシャープな造形に適しており、精巧度の向上に寄与しています。
金型や大掛かりな生産装置が不要なので初期投資は少なく済みますが、シリコン型へのレジン注入や成形後に取出す作業などは、1台1台全て手作業で行わなければならず、大量生産には不向きです。そのため、1台当たりの製造コストは高くつき、ダイカスト製モデルより総じて高額です。
BBR(写真)を始めとして、プロバンス・ムラージュやスターター、ヘコやアレザンなど、数多くの欧州クリエイター達が極少量生産で魅力的なキットや完成品を数多く生み出してきました。2000年代後半からキット・メーカーの勢いに陰りが出始めましたが、彼らの魅力的な作品群があったからこそ、モデルカー業界は発展期を迎えることができたと言えます。
モデルカーの精巧度が増した分だけ、脆い精密部品が増加し、アンテナ、ワイパー、サイドミラー、ウィンドゥ、ホイール、各エッチングパーツなど、少し触れただけで破損する危険性があり、取扱いには細心の注意を払う必要があります。
ダイカストとは、亜鉛合金やアルミ合金など非鉄金属による合金を指し、ホワイトメタルよりも硬い特性があります。ダイカスト鋳造は、もともと工業分野において大量生産のために開発された技術で、ダイカストマシンで原材料を金型に充填し、製品を鋳造します。初期投資が大きい代りに、1台当りの単価はホワイトメタルやレジン製品より格安に抑えられます。ただし、金型は細密な造形が不得意という欠点があります。
ブリキ玩具からの技術革新を経て、ダイカスト製のミニカー玩具が登場しました。1970年代後半のスーパーカー・ブームの頃が、1/43ミニカーの全盛期ではなかったでしょうか。1990年代になると、中国に生産を移転した格安かつ精巧なミニチャンプス(ポールズ・モデル・アート社:ドイツ、1991年設立)のダイカスト製モデルカーが登場し、“14歳未満は不適切” を謳って大人の美術工芸品としての認知度を高めました。
もともとミニチャンプスは、ドイツのダンハウゼンという老舗ショップの一ブランドであり、後にAMRを興すアンドレ・マリー・ルフ(1975~2004)も原型師を務めていました。ホワイトメタル時代に培われた原型師達の高い造形力が、ダイカスト製モデルカーの品質基盤を形成しています。
写真のモデルは日本の京商が発売した、セミ開閉のダイカスト製フェラーリF40です。単独では素晴らしい作品ですが、レジン製モデルと並べてみると、ついエッジの甘さが気になってしまいます。
プラスチックとは、人工的に数多くの分子を結合させて形成した合成樹脂(高分子物質)で、熱や圧力などによって任意の形に加工・成型できる性質(可塑性)を持っています。“造形できる” という意味のギリシャ語「plastikos」が語源です。
プラスチックの種類は数多くありますが、プラモデルやモデルカーに用いられる素材は、主にポリスチレン(スチロール樹脂)です。2010年代半ばから、ダイカスト製が中心だったミニチャンプスで、プラスチックの一種であるABS製モデルが発売され始めましたが、ここで紹介するプラスチックというより、レジンの代替素材という位置づけです。
写真は1990年代前半の、所謂スーパーカー第二黄金期にドイツの鉄道模型メーカー・ヘルパが発売した、プラスチック製フル開閉モデルのフェラーリF40です。組立キットもありました。非常に良く構成されていますが、色が塗装ではなく、プラスチック成型色のままなのが難点です。同様に日本のプラモデル・メーカーであるフジミ模型も出していました。
ダイカスト製と同じく、プラスチック製も金型を用いた大量生産方式のため、絶大な人気があって大量販売できる車種でなければなかなか製品化されません。そのため、プラスチック製フル開閉モデルは、当時の数年間だけ存在した短命の作品群でした。
〔学院長の補足メモ〕
ホワイトメタルのAMR製フェラーリF40、全周ウィンドゥとヘッドライトのバキュームフォーム透明パーツが、透明でなく黄ばんでいますよね。これは部品の経年劣化です。厳密には材質で異なるのでしょうが、古いキットや作品にはありがちで、コレクター泣かせの現象です。
ちなみにこのF40、私が初めてクレジットカード(しかも分割払い)で購入したモデルカーです。私は元々ランボルギーニ親派かつ “いつもニコニコ現金払い” 派でしたが、収集車種を広げていくうちに当初アンチ並みだったフェラーリF40もどんどん増えていきました。そんなある日、月に一度は通っていた五反田のコジマさんで完全品のAMR製F40に出逢ったのです。価格は何と10万円。もちろん現金の持ち合わせはありません。しかしモデルカーの歴史を語る上で外せないAMR製F40を前に、清水の舞台から飛び降りちゃいました。
1998年にオランダから帰国し、東京本社に勤務していた頃ですので、2000年前後数年のうちかと。その日は先代が不在で若大将だけだったと思います。外国人客が同様にクレジットカード決済を申し出て、若大将は快く値引きしてあげてたのに、数倍の高額商品を購入した私にはびた一文値引きしてくれませんでした。凄くショックでした。その日のエピソードを後に先代に話したら、「それは申し訳なかったね」とおっしゃってくれました。
名作と言えども価格は相対的です。数年前に海外のインターネット・オークションで、AMRのF40が3~4万円で出品されてました。余程モデルカーに精通したマニアでないと、あれから20年近く経った現代で、古いAMR作品を好んで買うコレクターは居ないからでしょう。悩んだけれど買いませんでした。あの1台を買っておけば、2台の平均値を6~7万円にまで下げられたのにと少し後悔しています。
2020年3月某日