第2章 / 第4節 車体色別 Colour

モデルカーを強く印象付ける要素は、何といっても車体形状ですが、同じくらい影響力のある要素に車体色があります。車種の外観上の特徴にあまり詳しくない方には、色の方が印象的かもしれません。

 

実車をコレクションできる境遇の方は極端な例外で、私のような大多数の庶民はマイカー1台としたものです。つまり、実車の世界では自分好みの色を一つ選べば完了します。しかし、自動車の全体系を収集できる1/43モデルカーの世界では、状況は全く異なります。

 

モデルカーは同じ車種でも車体色が異なれば別の作品となります。全色揃えるだけの “資金力” があれば問題ないのですが、精密モデルカーでそれができる境遇の方も例外と言えるでしょう。私のような大多数の庶民は資金力の代わりに “思考力” を駆使するしかありません。つまり、収集に際して「色の選択」を行うということです。


Artwork   Zender Fact 4 Spider Hard Top 1992

作品紹介 ツェンダー・ファクト4・スパイダー・ハードトップ 1992年

1/43 Zender Fact 4 Spider Hard Top 1992  ツェンダー・ファクト4・スパイダー・ハードトップ 1992年 Alezan アレザン

Description
Zender is a German tuning company founded by Hans Albert Zender and enthusiastically produced experimental prototypes in 1980s named Zender Vision 1 to 3. After Vision series, Zender introduced Fact 4 Biturbo in 1989 to demonstrate that their engineering  reached the "reality" (=fact) stage. However, they didn't intend to mass produce from the beginning. In 1991 Spider was presented. The model car is its closed hard top version released from Alezan in France as well as all other Vision and Fact models. The Fact 4 had a body and monocoque of carbon fibre, scissor doors and twin turbocharged 3562cc Audi V8 engine to achieve 454ps and 299km/h.

 

作品解説
ツェンダーはドイツのチューニング・メーカーで、ハンス・アルバート・ツェンダーが設立しました。自社技術と知名度を高めるため1983~88年にヴィジョンという実験試作車を発表し、シリーズ1~3を終えた後に “幻想(vision)” から “現実(fact)” へ進化したとして、1989年フランクフルト・モーターショーでファクト4(クーペ)を発表しました。フェラーリF40のようなリア・ウィングと、カウンタックのような跳ね上げ式ドアを備えていますが、全体のスタイリングは質実剛健にまとまっています。1991年にはスパイダーが、翌年に写真のハード・トップ・バージョンが発表されました。ツェンダーのコンプリート・カーはほとんど、フランスのアレザンから1/43モデルカーで発売されています。ファクト4はカーボン・ファイバー製モノコック&ボディに、アウディ製3562㏄ツイン・ターボエンジンを搭載し、最大出力454ps、最高時速299kmを発揮します。



モデルカーが纏う色彩の衣


カラー・バリエーション

色彩というのは、太陽からの偉大な恩恵の一つです。色の特性によって、受ける印象も異なります。細かい説明は色彩学の専門家に譲るとして、ここではモデルカー収集における車体色との付き合い方について説明します。

 

写真のランボルギーニ・カウンタックは、1/43のダイカスト製(ドイツのミニチャンプス)モデルです。形状が同じでも、色が違うとまるで別の車のような印象ですが、どの色も捨てがたく魅力的です。ダイカスト製モデルなら格安ですので、特定の車種に絞って全色を収集するという愉しみ方が可能です。

 

しかし、高額な精密モデルカーではそうはいきません。1台の価格がこれら6台分に相当するからです。1色しか選べないなら、あなたは何色を選択しますか?

 

また、写真のカウンタックは最初の市販車LP400ですが、例えば最終型の25thアニバーサリーをコレクションに追加するとなれば、あなたは一体何色のモデルを選びますか?

1/43 Minichamps Lamborghini Countach LP400, ミニチャンプス ランボルギーニ・カウンタック LP400

ランボルギーニは、車体色に関し少し特殊な存在です。創業時から顧客の要望なら何色でも提供する主義で、またレース活動には参加しない方針から、他のスーパーカー・ブランドのように国別イメージカラーも適用しませんでした。ミウラやカウンタックのモデルカーにカラー・バリエーションが豊富なのはそのためで、ランボルギーニに固定的なイメージ・カラーが定着していない理由です。

 

モデルカーが実車の縮小模型である限り、コレクターに最も強く影響する情報は、雑誌などで紹介される実車の写真に他なりません。カウンタックの場合、メディアに初お披露目された試作第1号車は黄色でした。また、市販車は緑やゴールドが印象的でした。自分自身の中で収集色を決めていない場合、そういう情報に左右されているはずです。

 

では、シリーズ最終型の25thアニバーサリーは何色を選びましたか? たぶん、赤か黄色ではないですか。それはこの2色が実車情報として数多くメディアに露出していたからです。

 

では、LP400と25thアニバの2台で色の組合せはどうでしょう? 同じでしたか、違いましたか。モデルカーを2台並べる場合、同じ年式なら好きな2色で構いませんが、異なる年式を並べるなら、同じ車体色を選んだ方が形状の変化を際立たせられます。

 

車体色に黒を選んだ方はいますか? スーパーカーの実車はほぼ全長4m・全幅2mあり、何色でも存在感は十分にあります。しかし、わずか10cmほどのモデルカーとなると、黒色は細かい造形を判別しにくくします。黒でもツートンカラーやゴールドの装飾が入った車体なら別ですが、そうでなければモデルカーの魅力を半減させてしまう色なので要注意です。

国別イメージ・カラー

第2節の「車種別」でも触れましたが、ナショナル・カラーと呼ばれる国別イメージ・カラーが存在しているのをご存知ですか。

 

黎明期の自動車は高級品で、一部の富裕層のための乗り物でした。極論すれば、金持ちの道楽品です。また、自動車の本質は何といっても “速く走ること” です。当然、誰が一番速いか競争したくなります。そうしてレースが誕生しました。

 

1900~05年に開催されたゴードン・ベネット・カップでは、国別対抗という趣向でレースが行われ、チームを判別するために国別に統一した車体色を用いる “ナショナル・カラー” が導入されました。イギリスが深緑、ドイツが白(後にシルバー)、フランスが青(水色)、ベルギーが黄、イタリアが黒(後に赤)、アメリカが赤(後に青白ストライプ)などです。

 

レースに勝利するのは自動車メーカーとしての誇りであり、またレースにおける強豪車種は人々の間にナショナル・カラーのイメージを定着させていきました。そのためレースで活躍した老舗メーカーは、国別対抗レースが行われなくなっても、ナショナル・カラーを用いたイメージ戦略を継続しています。

 

モデルカーの収集において車体色を限定しなければならない場合、自分が一番好きなシルバー以外では、できる限りナショナル・カラーで揃えるよう心掛けています。

1/43 McLaren M12, McLaren F1 GTR, McLaren Mp4-12C, マクラーレン

写真の3台は、イギリスのメーカーであるマクラーレンです。ロードカーでもF1カーでも、マクラーレンが好んで用いる車体色はパパイヤ・オレンジ(橙)です。不思議ではありませんでしたか。イギリス国籍なのに深緑(ブリティッシュ・レーシング・グリーン)ではないのです。

 

F1チームとして発足したのが1963年と遅いこともありますが、最大の理由は創設者のF1ドライバー、ブルース・マクラーレンがニュージー・ランド出身ということです。オレンジは彼の祖国のナショナル・カラーだったのです。この色は、マクラーレン・オレンジとも呼ばれています。

 

モデルカーを収集する場合、色の選択一つをとっても、その背景には自動車の歴史、各メーカーの思いや戦略、そしてコレクター自身によるコレクションの設計意図など、様々な要素や条件が関わっているのです。