フェラーリの美を紡ぐスタイリスト
フランコ・スカリオーネ、ジョルジェット・ジウジアーロ、マルチェロ・ガンディーニという名デザイナー達を輩出した、21世紀ににおける現役最古のカロッツェリアことベルトーネ(創業1912年)が、2015年に遂に倒産(2度目)し解体されました。従って、2016年現在で世界的に最も名高い現役のカロッツェリアは、間違いなくピニンファリーナとなった訳です。
スーパーカー・ファンにとっての知名度は、何と言ってもフェラーリとの濃密な関係に起因しています。しかし、2013年発売のスペチアーレ(ラフェラーリ)は、フェラーリの社内デザイン・チームが生み出しました。カロッツェリアを取り巻く環境は変化しています。2015年にインド財閥に買収されたピニンファリーナは、時代の荒波をどう乗り越えていくのでしょうか。
Name / 社名 | Pininfarina S.p.A. | ピニンファリーナ |
Headquaters / 本社所在地 |
Via Nazionale, 30, 10020 Cambiano, Turin, Piedmont, Italy |
イタリア、ピエモンテ州、トリノ、 カンビアーノ 10020、ナジョナーレ通り30番 |
Founder / 創業者 |
Giovanni Battista Farina (renames Pininfarina in 1961) |
ジョヴァンニ・バッティスタ・ファリーナ (1961年にピニンファリーナと改名) |
Founded / 設立 |
1930 in Turin, Italy (Carrozzeria Pinin Farina) |
1930年 / イタリア、トリノ (カロッツェリア・ピニン・ファリーナ) |
Key People / 主要人物 |
Battista Pininfarina (1893-1966) Renzo Carli (1916-) Sergio Pininfarina (1926-2012) Andrea Pininfarina (1957-2008) Paolo Pininfarina (1958-) Fabio Filippini (1964-) Silvio Pietro Angori (1961-) |
バッティスタ・ピニンファリーナ(1893~1966年) レンツォ・カルリ(1961年~) セルジオ・ピニンファリーナ(1962~2012年) アンドレア・ピニンファリーナ(1957~2008年) パオロ・ピニンファリーナ(1958年~) ファビオ・フィリッピーニ(1964年~) シルヴィオ・ピエトロ・アンゴーリ(1961年~) |
Designers / 主要デザイナー |
Adriano Rabbone Tom Tjaarda Filippo Sapino Paolo Martin Lorenzo Ramaciotti Enrico Fumia Leonardo Fioravanti Ken Okuyama |
アルド・ブロヴァローネ トム・チャーダ フィリッポ・サピーノ パオロ・マルティン ロレンツォ・ラマチョッティ エンリコ・フミア レオナルド・フィオラヴァンティ 奥山 清行(ケン・オクヤマ) |
Owner / 親会社 | Mahindra Group (2015-) | インドのマヒンドラ財閥(2015年~) |
11歳から兄の経営する自動車工房を手伝っていたバッティスタ・ファリーナは、37歳の1930年に独立し、カロッツェリア・ピニン・ファリーナをトリノで設立します。47年に発表したチシタリア202が、51年にニューヨーク近代美術館で初展示される自動車(全8台)の1台に選ばれ(その後に永久展示)、ピニンファリーナの名は天下に轟きます。
さらに、51年のバッティスタとエンツォの会談から、ピニンファリーナとフェラーリの特別な提携関係が始まります。61年に社名を1語のピニンファリーナに改名すると、政府からも一族の姓として認められます。72年にはイタリア初の実車風洞設備を完備し、80年代には工場の近代化も進めて、カロッツェリアより自動車メーカーと呼べるまでに発展を遂げました。
ピニンファリーナは、フェラーリだけでなく数多くの自動車メーカーに優れた作品を提供していますが、他のカロッツェリアと比べ最大の特徴となるのは、やはり独占に近いフェラーリとの提携関係です。
本項はピニンファリーナの代表的な作品紹介ですので、敢えて車種をフェラーリだけに絞った上で、通常の市販車を避け、カロッツェリアらしいコンセプトカーとワンオフ・モデルを選定しました。各作品に秘められたドラマを堪能してください。
フェラーリは1966年に、グループ4参戦用のレースカー、ディーノ206Sを開発します。その中のシャーシNo.10523の個体がピニンファリーナに持ち込まれ、美しいボディを架装したレースカー由来のロードカー206C(コンペティツィオーネ)として、67年のフランクフルト・ショーで公開されます。
スタイリングはパオロ・マルティンが担当しました。43年トリノ生まれの彼は、ミケロッティやベルトーネを経て、67年からピニンファリーナのデザイナーとなります。206が元々持つフォルムの抑揚をさらに研ぎ澄ませ、ガルウィング・ドアを採用して特徴的なキャビン形状を生み出しました。
206Cは、2リッターのディーノV6エンジンをミッドに搭載した実走可能プロトタイプです。イタリア製ロードカーですが、ベース車のレースカーと同じ(サーキットは右回りが多い)右ハンドルです。ピニンファリーナが所蔵していましたが、2007年にジェームズ・グリッケンハウス氏へ販売されました。
パオロは他にも、F1の安全性向上を試みたフェラーリ・シグマF1コンセプト(69年)やフェラーリ512Sモデューロ(70年)などをデザインしています。ワンオフ・プロトタイプである206Cは黄色いボディですが、写真の1/43モデルカーはMRコレクション製の特別なイタリアン・レッド版です。
フェラーリは、ディーノ・ブランドによって自社初の市販ミッドシップ・ロードカー 206GTを1967年に誕生させます。そして、本家V12のミッドシップ化に向け、ピニンファリーナはFRの旗艦365GTB4デイトナの60度V12エンジンをミッドに横置きするデザイン・スタディ・モデル、P6ベルリネッタ・スペチアーレを68年のパリ・サロンで発表します。
総帥エンツォは、70年からF1に投入する水平対向180度V12(ボクサー)エンジンの搭載を指示します。エンジニアリングは抜本的に見直されましたが、レオナルド・フィオラヴァンティの描いたシンプルなボディ・ラインは、365GT4/BB、512BB、308、328、288GTOと十数年間に渡り、フェラーリのスタイリングとして継承されていきました。
元・映画監督の実業家でスーパーカー・コレクターのジェームズ・グリッケンハウスは、購入した新車のエンツォ・フェラーリと自身が保有するフェラーリ330P3/4(シャーシNo.0846)をピニンファリーナに送り、エンツォ・ベースの現代版330P3/4のワンオフ製作を依頼します。
ピニンファリーナは、レトロ・コンセプトを超えたスーパースポーツの開発を目指し、エンツォの車両識別番号(VIN)はそのままに、パワートレインも含めほとんどの構成部品に手を入れます。そのため、同じF140B型エンジンでありながら、出力はエンツォを上回る669ps(492kW)を発揮します。
スタイリングはジェイソン・カストリオタが行い、風洞実験と走行試験で磨かれたドライ・カーボン・ボディはエンツォより270kg軽量化されます。パフォーマンスも、0-100km/h加速は3.0(エンツォは3.14)秒、最高速は375(エンツォは350)km/hに向上しています。
P4/5は、2006年8月のペブルビーチ・コンクール・デレガンスで初披露され、9月のパリ・モーターショーに出展されます。ジェームズはSCG社を設立し、11年にF430ベースのP4/5コンペティツィオーネを製作してレースに参戦、15年には通算3作目となるSCG003を自社開発しています。
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